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京都地方裁判所 昭和44年(行ウ)29号 判決 1972年3月15日

京都市右京区西京極豆田町一〇番地一

原告

株式会社四宮運輸倉庫

右代表者代表取締役

四宮正雄

右訴訟代理人弁護士

北川敏夫

姫野敬輔

京都市下京区門之町五条下る大津町

被告

下京税務署長

村上健一

右指定代理人

下村浩蔵

宇田川秀信

上田正夫

村田巧一

前田昭夫

立川正敏

畑中英男

安岡喜三

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

1  被告が、原告の昭和四〇年一二月一日から昭和四一年一一月三〇日までの事業年度の法人税について、昭和四二年五月三一日付でなした総所得金額を二二、七八七、三三三円、法人税額を八、〇〇八、四二〇円とする旨の更正処分(ただし、大阪国税局長が昭和四四年五月一日付でなした裁決により総所得金額二一、五八七、三三三円、法人税額七、五七六、三〇〇円と変更されたもの)のうち、総所得金額九、一七三、五八九円、法人税額三、一〇七、四六〇円を越える部分、および、右更正処分に附帯してこれと同日付でした過少申告加算税二四五、〇〇〇円を賦課する旨の決定(ただし、右裁決により二二三、四〇〇円と変更されたもの)を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二、被告

主文同旨の判決

第二、請求の原因

一、原告は、その昭和四〇年一二月一日から昭和四一年一一月三〇までの事業年度(以下本件事業年度という)の法人税について、昭和四二年一月三〇日付で、被告に対し

総所得金額 九、一七三、五八九円

法人税額 三、一〇七、四六〇円

として確定申告したところ、被告は、昭和四二年五月三一日付で

総所得金額 二二、七八七、三三三円

法人税額 八、〇〇八、四二〇円

とする旨の更正(以下本件更正処分という)、および

過少申告加算税 二四五、〇〇〇円

を賦課する旨の決定をなした。

二、原告は、本件更正処分および過少申告加算税賦課決定につき、昭和四二年六月二八日、被告に対し異議申立てをしたが、右は、同年九月二六日棄却され、右異議申立棄却決定につき、原告は、同年一〇月二六日付で、大阪国税局長に対し審査請求をしたところ、大阪国税局長は、昭和四四年五月一日付で原処分の一部を取消し、

総所得金額 二一、五八七、三三三円

法人税額 七、五七六、三〇〇円

過少申告加算税 二二三、四〇〇円

とする旨の裁決(以下本件裁決という)をなし、原告は、同年五月三一日、その旨の通知を受けた。

三、しかしながら、原告の申告のとおり、原告の本件事業年度の法人税の総所得金額は九、一七三、五八九円、法人税額は三、一〇七、四六〇円であり、本件更正処分のうち、右の額を越える部分は違法であり、従つて、過少申告加算税賦課決定も違法であるから、その取消を求める。

第三、請求の原因に対する被告の答弁及び主張

(答弁)

一、請求の原因一、二の事実は認める。

二、同三の事実は否認する。

(主張)

一1、原告の確定申告にかかる総所得金額については、左のとおり加算、減算すべきものがある。

(一) 加算分

(1) 繰越欠損金控除誤り 一一、九七九、八八七円

(2) 減価償却費超過額 八四四、〇七五円

合計 一二、八二三、九六二円

(二) 減算分

(1) 前期減価償却超過額の当期認容額 三五一、五四四円

(2) 未納事業税の当期認容額 五八、六七四円

合計 四一〇、二一八円

従つて、原告の本件事業年度の総所得金額は、申告額九、一七三、五八九円に、(一)の合計額一二、八二三、九六二円を加算し、これから(二)の合計額四一〇、二一八円を減算した二一、五八、七、三三三円であり、その法人税額は七、五七六、三〇〇円である。

2  原告の本件事業年度の過少申告加算税額は、1により算出された法人税額七、五七六、三〇〇円から申告額三、一〇七、四六〇円を控除した四、四六八、八四〇円の一〇〇分の五に相当する二二三、四〇〇円である。

二、右一のうち、繰越欠損金控除についての主張はつぎのとおりである。

1 原告は、前記一1(一)(1)の金額一一、九七九、八八七円(以下、本件係争金額という)を繰越欠損金として本件事業年度の損金に算入して申告したが、右金額は、原告が、昭和三二年以前に訴外伏見信用金庫から借入れた金員であり、借入金債務としては本件事業年度開始の日から六年以前に生じている。従つて、右金額は、本件事業年度開始の日前五年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額ということはできないから、昭和四〇年法律第三四号により改正された法人税法(以下、単に法人税法という)第五七条第一項に規定する欠損金の繰越の適用がないものである。

原告は、昭和三六年五月一六日、京都簡易裁判所昭和三五年(ユ)第四三一号家屋売渡請求調停事件の調停(以下本件調停という)が成立したことにより本件係争金額が欠損金として生じたと主張するが、右調停においては従前の債務が確認されたにすぎない。

2 原告の本件事業年度の直前の事業年度(昭和三九年一二月一日から昭和四〇年一一月三〇日まで)の決算書では、「当期利益金」は三五七、三八一円であつて、その法人税についての確定申告では、繰越欠損金の控除をして、総所得金額を零としていた。被告はこれにつき調査のうえ、昭和四二年五月三一日、右総所得金額を九七七、九六一円とする旨の更正処分をなしたが、原告は右更正処分につき異議申立てをせず、審査請求期間を徒過して審査請求をしたためこれは却下となり、右更正処分は確定した。

従つて、本件事業年度においては、控除すべき欠損金の繰越額は存在しない。

三、なお、被告は、右一(一)の外、更に、役員に対する過大報酬一、二〇〇、〇〇〇円を原告の本件事業年度の総所得金額に加算すべきものとして本件更正処分をなしたけれども、大阪国税局長は、原告の審査請求を受けて、右の点について原告の主張を認め、その部分を取消すこととして本件裁決をなしたものである。

以上のとおりであるから、本件更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分に違法の点はない。

第四、被告の主張に対する原告の答弁および反論

(答弁)

一、1(一) 被告の主張一1(一)(1)は否認する。(2)は認める。

(二) 同(二)は認める。

2 同2は否認する。

二、1 同二1の事実のうち、原告が本件係争金額を繰越欠損金として本件事業年度の損金に算入して申告をしたことは認めるがその余の事実は否認する。

2 同2の事実は争う。

三、同三の事実は認める。

(反論)

一、1 原告は設立後間もなく経営不振に陥り、毎期欠損を重ね、営業資金を原告代表者訴外四宮正雄または訴外伏見信用金庫から借入れていたところ、昭和三一年頃、経営状態は最悪となり、伏見信用金庫からの借入金が激増したのみならず、同金庫から実質上の経営介入を受けるに至り、資産管理、資金の借入並びに返済、金銭出納等経営全般を支配されるようになつた。

2 その頃、原告の同族会社である訴外株式会社京都バネ製作所(代表取締役四宮正雄)、同株式会社京玩(代表取締役北村茂一)の二社も同信用金庫からの借入金で資金繰りし、原告同様、同信用金庫に経営を支配されている状態であつた。また、四宮正雄、北村茂一も同信用金庫から相当の借入れをしていた。

3 このように、三会社二個人が全く経営の主体性を失つていたため、訴外伏見信用金庫は何等の通告もせずに、五者の税金、出資金、担保物件等の処分をなし、五者相互の区別なく、随時任意に彼此流用して貸付金の回収をした結果、原告としては、一体如何なる資産があり、如何なる債務を負つているのか確認するのが不可能となつた。

4 しかも、昭和三二年に至り、同信用金庫は原告の経営支配を突然打ち切るとともに、逆に、債権回収のために強制取立ての手段をとり始めたので、原告は同信用金庫に対する債務を確定するために整理を開始し、営業を休止した。

5 これに伴い、債権債務の収拾を側面から促進し、営業の実体を存続させる目的の、いわゆる第二会社として、訴外日本急行貨物株式会社が設立された。

同訴外会社は、原告が営業用に使用してはいたが、その所有権は既に訴外伏見信用金庫の担保権実行により同信用金庫に帰していた京都市下京区大宮通り仏光寺下る五坊大宮町八〇番地二の土地建物を同会社に売渡すよう要求して、同信用金庫を相手方として本件調停を申立て、昭和三六年五月一七月成立した本件調停により、同信用金庫は同会社に右不動産を売渡すことを予約し(調停条項第三項)、前記五者および訴外四宮芳太郎の六者は利害関係人として包括的に同信用金庫に対して一七、四九八、五五三円の債務を負担することを認めた(同第二項)。

6 以上のとおりであつて、原告としては、従前の伏見信用金庫に対する債務の存否、内容について一切知りえなかつたものであるところ、本件調停により、はじめて右債務が確定されたのであるから、本件調停の成立した時点で欠損金額が生じたものである。

7 従つて、右欠損金額は、本件事業年度開始の日前五年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額であり、本件係争金額は、右欠損金額の繰越残額であるから、本件事業年度の損金に算入されるべきである。

第五、証拠

一、原告

甲第一および第二号証を提出し、証人高野重喜の証言ならびに原告会社代表者の供述を援用し、乙号各証の成立を認めた。

二、被告

乙第一ないし第三号証を提出し、甲第一号証の成立は認めるが同第二号証の成立は知らないと述べた。

理由

一、請求原因一、二の事実は当事者間に争いがない。

二、被告は、原告の本件事業年度の総所得金額が二一、五八七、三三三円であると主張するので判断する。

原告の確定申告にかかる総所得金額九、一七三、五八九円について本件係争金額を除き、被告が前記第三の主張一1(一)、(二)において主張する各金額が被告主張のとおり加算または減算されるべきこと、従つて、本件事業年度における原告の総所得金額が九、六〇七、四四六円を下らないこと、および原告が本件係争金額を繰越欠損金として本件事業年度の損金に算入して申告したことは当事者間に争いがない。

右繰越欠損金についての原告の主張は必ずしも明確でないが、その要旨は、本件係争金額は、本件事業年度の開始日である昭和四〇年一二月一日の前五年以内に開始した昭和三五年一二月一日から同三六年一一月三〇日までの事業年度(以下、昭和三六年度事業年度という)において生じた欠損金額であるから、法人税法第五七条の規定により、繰越欠損金として本件事業年度の損金の額に算入されるべきものである。すなわち、右昭和三六年度事業年度中の昭和三六年五月一七日成立した本件調停において、原告は訴外伏見信用金庫に対して一七、四九八、五五三円の債務を負担することを認めたので、右金額の損金が生じ、他方、右事業年度において益金として計上すべきものは皆無であつたから、右損金の額がそのまま同年度の欠損金額となり、以後、右欠損金額が順次繰越されて損金に算入され、本件事業年度分の損金として繰越されるべきものとして本件係争金額が残存しているというにあると解しうる。これに対し、被告は、原告主張の右一七、四九八、五五三円の債務は、原告が昭和三二年以前から伏見信用金庫に対し負担していた借入金債務であり、本件調停により右金額を確認したものにすぎないから、これをもつて昭和三六年度事業年度に発生した損金とみることはできず、従つて同年度においては何らの欠損金額も生じていないと主張する。

成立に争いのない甲第一号証、原告会社代表者の供述により真正に成立したと認めうる同第二号証、証人高野重喜の証言および原告会社代表者の供述によれば、原告会社は、昭和二八年ごろから経営不振に陥り、伏見信用金庫から多額の融資を受けるようになつたが、昭和三二年ごろ右信用金庫に対する負債額は最高額の約二、〇〇〇万円に達したこと、そのころ、原告会社代表者四宮正雄が同様代表者の地位にあつた訴外株式会社京都バネ製作所および東山軽工業株式会社(以下、それぞれ京都バネ、東山軽工業と略称する)も、伏見信用金庫に対し借受金債務を負つていたこと、右信用金庫は、そのころ原告会社および右両訴外会社の経営を事実上支配するに至つたが、昭和三三年以降は、右三会社に対する融資を打切り、自己の債権回収に乗出したこと、右債権回収の途上、原告会社の事業を承継再建し、伏見信用金庫の債権回収を促進するため訴外日本急行貨物株式会社(代表者四宮正雄。以下、日本急行と略称する)が設立されたこと、右日本急行が伏見信用金庫を相手方として申立てた本件調停事件において、昭和三六年五月一七日、原告および前記京都バネ、東山軽工業のほか三名が利害関係人として加わり調停が成立したが、その調停条項第二条には、「申立人日本急行は、原告会社ら六名の利害関係人が相手伏見信用金庫に対して借用金債務元本金一七、四九八、五五三円也の債務を負担し、これが支払義務のあることを認める。」との記載があること、右債務額のうち、約一、五〇〇万円は原告会社が、その余の部分は京都バネおよび東山軽工業が、いずれも昭和三二年以前に伏見信用金庫から金員を借受けたことにより生じたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、右調停条項第二条の趣旨は、日本急行が伏見信用金庫に対し、原告会社その他の利害関係人が昭和三二年以前から同金庫に対して負つていた合計一七、四九八、五五三円の借用金債務を引受けることを承認し、その支払義務あることを認めるというにあり、これにより原告会社と伏見信用金庫との間に何ら新しい債権債務を発生させるものではないと解するのが相当である。これに反する原告の主張は採用できない。

そうすると、本件調停成立時における原告の残存債務は、前記認定の約一、五〇〇万円にとどまるところ、右はすでに昭和三二年以前に生じていたものであるから、これをもつて昭和三六年度事業年度の損金に計上することは許されない。けだし、法人税法における損益の発生時期は、原則として、現実の収入、支出にかかわりなく、収入すべき権利または支出すべき義務の確定した時に損益の発生を認識すべしとするいわゆる権利確定主義により決定すべきものと解するを相当とするところ、原告の右債務は、すべて昭和三二年以前における伏見信用金庫からの借入金債務であるから、いずれも右借入時に返済義務が確定していたものであるからである。原告は、伏見信用金庫の経営介入等により、本件調停成立に至るまで債務の存否、内容について一切知りえなかつたのであるから、本件調停成立によりはじめて原告の債務が確定されたものであると主張するが、仮に右事実が認められるとしても、右は単に原告の主観的事情にすぎないから、これをもつて前記結論を左右するに足りず、原告の右主張は採用できない。

以上のとおりであるから、本件係争金額は昭和三六年度事業年度に生じた欠損金というをえず、原告は、本件係争金額が本件事業年度の損金に算入されるべきことにつき他に何ら主張立証しないから、右金額は、被告主張のとおり、原告の前記申告額に加算されるべきものである。

従つて、原告の本件事業年度における総所得金額は被告主張の二一、五八七、三三三円となる。

三、右総所得金額に基づき計算すると、原告の本件事業年度の法人税額は七、五七六、三〇〇円であり、従つて、過少申告加算税は二二三、四〇〇円となることは、法人税法第六六条、国税通則法第六五条の規定により明らかである。

四、従つて、被告のなした本件更正処分および過少申告加算税賦課決定は、本件裁決により変更された限度で適法であるから、その取消を求める原告の本訴請求は理由がなく、棄却をを免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小西勝 裁判官 舘野明 裁判官 鳥越健治)

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